←脱兎

 

20070707

みにまむ−わぁるど−すたじあむ

  

 ― 僕は、一体何をやってんだろうなぁ―、と。

 朝も早い公園のベンチにて。

頬杖ついてボンヤリコ、前方に広がる何気ない風景に目を泳がせながら、思わずにはいられない。

おおよそ『景気回復』という四文字とは無関係な感じで、今日も再就職先を求めて出発―。

とりあえず、過ぎるほどに先行きを心配してくれよる両親の、重すぎる愛情を回避する為だけに・・・。

(ああ、それは『脱出』と言った方が正しいかもしれない予感。)

 

― 一体何で、今更会社を辞めてなぞ来るんだか・・・・・・。

・・・タメ息。

人生の天秤を損得勘定のみで図ってみるならば、それは自分でも・・・そう思う。それは、まったくの、正論だ。

そうして、感情論から言ってみれば・・・。

― あのまま、あそこで我慢をし続けていたならば、自分は自分で無くなっていたに違いない、とも言い切れる。

その結果が、まったくの別人格の仕事人間に塗りつぶされていたのか、それとも我慢の限界の反動で、高い所から落ちていたのか。

命の有無はさておいて、きっと今の『自分』は完全抹殺されていたに違いない。

 

― それをワガママ・ゼイタクだとおっしゃるかもしれませんが・・・

知らず板についていた営業口調で自らに呟いてみて、失笑―。

それでも、自分にとっては我慢出来なかった。

職を失い、高給金を失っても、それが何だと言い切れるほどに・・・。

とにかく、あそこを逃げ出さなければ、自分自身が『抹殺される』―。

そちらの方が、何倍も・何十倍も・何百倍も・・・、恐ろしかった。

悲鳴を上げずにはおられないくらいに、それを噛み殺す毎日に、疲れきっていた。

 

― ああ、それも既に過去のお話かぁ・・・。

視界を横切るのは、かつて自分も混じっていた通勤に行き交う人々の群れ―。

それを遠景に構えて、何故かまとまって右往左往する、ハトの群れ―。

― ・・・ハトの塊・・・★

うんざりしたように、目を閉じてしまう。

自分は、何故か昔からハトは今いち好きになれない。

何というか・・・、実に意地汚い感じがする。

 

ハトエサを手に、たくさんのハトがいる場所へと連れて行ってもらった記憶がある。

小さな子供の持つエサ目がけて、殺到するハト・ハト・ハト―。

思い出の中の小さな子供は、ハトの蹴爪でひっかき傷だらけになって泣いている。

エサが無くなったら、ハイ・それまで・・・。

後は知らぬ存ぜぬ、また別のエサを探しに特有の前後運動をしながら去って行く。

子供心にも、恨みつらみに思ったものだ。

― 何なんだ、あいつら―。もらうだけもらっといて、薄情な奴ら・・・!!

平和の象徴だ何だと言われるが、現実を見ろ。

ノアの箱舟にオリーブの葉を持ち帰ったのだって、きっと他に食い物が無かった上に、獲物が自分の口に合わず。

さりとて捨てるのも何だかな〜、とか思いつつ、持ち帰ったのに違いないのだ。

― そんぐらい、意地汚い食い意地張った連中だ、あいつらは・・・!!

 

「幼児記憶ってのは、結構根深いもんだよなぁ〜。」

 「!?」

 突然の声に、驚いて隣を見る。

 いつの間にやら、隣人一人―。

 手にしたパンの袋を開けようと、ビニョビニョ引っ張っているこじんまりと整った顔は、何だかリスやハムスターを思わせる。

 愛嬌のある感じの、少年とも少女とも見える顔―。

風にサラサラ揺れる茶色い髪の下で、灰色がかった緑の瞳が、ムッとしたように細められる。

 ― うーん、縦に切れ線入れた方がスンナリ開くと思うんだけどなぁ・・・★

 そういう言葉をかけるにためらわれる程に、少年の顔は真剣そのもの―。

  

 その手から、ヒョイとパンの袋がかっさわられる。

 「あ〜っ! こら、何すんだよ、<ジョーカー>野郎っっっ!!」

 「タイム・オーバー。」

 これもいつの間にやらベンチの背側に立っていた長身黒髪の青年が、一言。

 言葉の切れに乗じたように、アッサリ開封して少年の手の内に戻してやる。

 「時間掲示板なんざ、どこにあるんだよ、ったく・・・。」

 ブツブツ呟きながら、中のコッペパンを取り出して、少年はおもむろに片端を引きちぎり、残りを口にくわえてモゴモゴ器用に食べ始める。

  

 引きちぎった大きめの塊は、手の内で丸められ、不意にハトの塊目掛けて放り出される。

 「あ!」

 ― 確か、ここはハトにエサあげちゃマズイんじゃ・・・・・・!

 心の中の注意事項を口に出す勇気はとても無く、横目でチラリと隣を見る。

 実に暇そうにモゴモゴ口を動かしつつ、半分程を制覇したパンを手で持って、一休み。

 「ルール違反でイエロー・カードってか?」

 「!!」

 またもや他人の心を見透かしたような台詞に、ポカンと口を開いてしまいながら。

 もう一人の方を見てみれば・・・、こっちも、立派なイエロー・カード。

 立ったままでタバコ取り出し、おもむろに一服していたりする。

 フゥーッ、と。白い煙を吐きながら、実にアッサリと言い切るに。

「何、イエロー・カード一枚切られたくらいで、そうそう退場にはつながらないさ。」

 「んじゃ、問題無しって事で?」

 「ああ、問題無い。」

 「・・・・・・・・・★」

  

 ― そういう発想する時点で、かなり問題なのではないだろうか、と。

 おもわず思いながら、口に出せる訳が無く・・・。

 またもや、ハトの群れに目をやってしまう。

 パンのボールを中心として、右往左往するハトの群れ―。

 熱狂に熱狂を重ねて、いまやヒート・アップしまくったボールの争奪戦は、さながら・・・。

 「うーん、ミニマム・ワールド・カップ・・・@」

 「いないだろ、22匹―。」

 「んなもん、早々退場くらってるに決まってんだろが。」

 「ああ・・・、確かにフライング多そうですよね、ハトだけに・・・★」

 つい、口走ってしまってから、赤面―。

 いや、別にそんな口を出すつもりでは無かったのだけれども、何かその場のノリで、つい・・・。

  

 ― ああ、二人からの視線が痛い・・・★

 穴があったら入りたい―、いっその事寝たふりで、寝言だったと思って欲しい・・・。

 そう、思って。せめて眼鏡を外して、ガラス拭き―。

 「へぇ・・・。」

 その顔の正面から、覗き込まれている事に気付き、おもわず眼鏡を取り落とす。

 それを至極当然の如く、片手に受け止め、トントン、と肩を叩く道具にする少年A。

 「なるほど。『ハト』が『フライング』、ねぇ・・・。」

 ケタケタと笑い始める少年に赤面度合いが急上昇してしまう。

 「ああ、なるほど―。なかなか、うまい具合のシャレっ気だ。」

 実に淡々としながら笑いを含んだ声に、そっと見れば。口の両端を軽く引いた感じで、面白そうに青年までもがこちらを見ている。

   

 「シャレ・・・、言ったつもりでは無かったんですけどぉ・・・★★★」

 「無自覚なら、なおさら天賦の才って奴だろ?」

 「・・・正直、まったく嬉しくない気がします。。。― ―;」

 更にケタケタ笑いながら、少年Aがポクポクと肩を叩いてくるのに閉口しつつ、何とも身の置きようが無くなってくる。

 ハトのワールド・カップは続行中。

 余程しっかりと固められてしまったものか、ボールはなかなか小さくならない。

 大きな球体の塊をくわえあげ、えい! とばかり取り落とし、ちぎれた破片を食べているハトに、またもや一言。

 「あれって、ハンドじゃないんですかぁ?

 「ハンドなんてのは、ありえない。」

 「手が無いからな、ハトだけに@」

 「ああ、それもそうだった―。口を出すのはサッカー的には反則にならないんだ。」

 「ま、審判に物言いでなければ?」

 「審判・・・・・・★」

  よくよく目をこらして見れば、確かに一羽のスズメが・・・。

 「・・・審判、ボール追っかけんの大変っすね・・・★」

 「まぁな。」

  と、<ジョーカー>氏。したり顔でおっしゃるに。

 「何せ、コーナー・ラインが無いオープン・フィールドだ。反則取るにも苦労だろう。」

 「ゴールも無いしな、実質。」

  ニヤニヤしつつ、少年も言う。

 「ま、いいんじゃないの〜? ハトだからって訳じゃねぇけど、平和だし?」

 「平和・・・の象徴って、こういう意味だったんですか・・・???」

  何だか騙されている気がする、という風情の自分の台詞に、またもや爆笑してくる少年。

   

 「いいじゃん、いいじゃん。平和が一番! 特にお宅みたいな人種なんざ、戦争状態じゃ真っ先にBANG!」

  鼻先に冷たい感触。ひゃっ、と身をすくませてしまい、それが自分の眼鏡だと気付く。

  ニヤニヤしながら、少年。

 「暇そうじゃん―。何なら一緒にはまってみないか? <ウサギの穴>に―。」

 「・・・『アリス』、ですか?」

  ピクッ、と。何故か眉間に青筋が入る、少年A―。

  その目の前に、スッと大きな手が割って入る。

 「自業自得だ―。こいつの失言誘ったのは、自分だろう、『カイ』?」

  今度は『雪の女王』かな、と。

  ボンヤリ思ってみた手の中に、眼鏡が手渡される。

  それをかけるなり、肩をすくめる少年Aのヤレヤレ、と大きく肩をすくめる姿が目に入る。

 「オッケ、オッケ・・・。オレが悪かったし〜? そんな訳で、お宅<眠りネズミ>決定な@」

 「・・・はい〜???」

  話の展開についていけないまま、差し出された少年Aの手を、ポカンと見つめてしまう。

 「いいじゃん。どうせ探してんだろ、『就職先』?」

 「え、まぁ、それは・・・★」

 「だから、<眠りネズミ>決定。そういう訳で、<ウサギの穴>へご招待―@@@」

 「え? え・え・え???」

 「ん?」

  困惑したように青年の方へと目を向ければ。

  何故かポケット・エチケット灰皿へ吸殻投入中―。

 「ああ、だって吸殻放置でレッド・カードはちょっとな。」

 「・・・いや、聞いてませんから。」

 「ああ、何? んじゃ、いきなりヘビーに『三月ウサギ』の家に行ってMAD・TEA・PARTY希望かぁ?」

  見かけによらず大胆な奴だと目を丸くする少年に、ガックリ。

 「いえ、あのぉ〜・・・★★★」

   

  ・・・タメ息。

  かつての上司の批評が、頭の中をよぎって行く。

 ― 完璧なまでのセールス・トーク、完璧なまでの礼儀正しさ・・・、惜しむらくは『押しが弱すぎ』・・・・・・。

 「ん?」

  ニコニコニコ・・・。

  楽しそうな笑顔。邪気の無い笑顔。実に人の良さそうな笑顔―。

  何を考えているのかは分からないけども、何だか人生楽しみきっている感じのする少年の笑顔に、押し切られ・・・。

  観念したように、言わざるをえない。

 「お、お世話になります・・・・・・★」

 「オッケ・オッケ@ オレは目下のトコ<ドーマウス>―<ヤマネ>って呼ばれている@」

 「あれ? それも<眠りネズミ>なのでは???」

 「気にすんなって@ いいんだよ、バレなきゃ@@@」

 ― ・・・誰に???

  実に素朴な疑問に対する答えは無く、代わりにいたずらっぽいウィンクが向けられてくる。

 「ま、あれだよな。平和〜に、とりあえずんトコ、目の前に放り出されたボールにとっついてみんのも一興じゃん?」

   

 「でも、僕は一体何をすれば・・・」

 「単純だけど、意外と難しいお仕事@」

  ニコニコニコ、と。<ヤマネ>クンは人懐っこい笑顔で言ってくる。

 「ま、早い話ホスト業が一番近いかなぁ?」

 「ホ、ホ、ホストさん・・・、ですかぁ!?」

  あまりの似合わなさに、つい腰を引いてしまいそうになったトコへ、ポン、と肩を叩かれる。

 「あれの言う事を額面通りに受け取っていると、しまいには顔面筋肉痛になるから。。。」

 「どーゆー意味だよ、<ジョーカー>っ!!」

 「額面通りの意味だ―。この場合は、キッパリ。」

 「そうそう―。」

  またもや、新たな声が加わってくる。

  甘いテナーの響き、ツートン・カラーのクセのある髪・・・。

  そして、黒地の服に豹柄のワンポイントをあしらった服がやけに似合う、これも美形の青年・・・。

  何故か、既視感を感じるのは、何なんだろう???

 

 「遅かったな、<チェシャ猫>。」

 「ああ、少しばかり用事に手こずっててね―。まぁた、悪フザケしていたのかな? <ヤマネ>クンは?」

 「何でだよ。ちゃんと真面目〜に、ワールド・カップを仲良く観戦してたよなぁ?」

 「え? あ、はい、まぁ・・・★」

  一向に、白黒つきそうも無い上に、混戦極まって終わりすら見えない大乱闘ゲームにチラリと目をやりつつ。

  結局、自分の就職ってのの中味は何なのか、と。改めて小首をかしげてしまう。

 「だから、普通〜に、生きてりゃいいんだってば。」

 「普通に・・・、生きる?」

  そぉ、と。うなずいて見せる<ヤマネ>。

 「とにかく『自分らしく』っていうか、そのまんま。」

 「自分の思うがままに―、『ワガママ』に。」

  歌うような節で、<チェシャ猫>も。

 「与えられた役を、演じるも・演じないも己が意思に基づいて―。」

 「ま、難しい話じゃない。とにかく、毎日を生き残れっつー話。」

  片手を一回振って見せ、<ジョーカー>が一言で片付けたのを合図に。

  パチン、と指を鳴らす<ヤマネ>の仕草に合わせて、『扉』が開く。

 

  いつからそこにあったのか―、何故か当然のようにその『扉』へと進んでいく。

  まるで、そこへ行くのを、最初から―、自分が望んでいたように。

  ためらいは、まったく無い。

  新たな世界に踏み込む前に、ちょいと後ろを振り返る。

  ひとつのボールを取り合って、右往左往する影は数え切れないほどに増殖している。

  あの丸いモノ―、あれは、本当に、丸めたパンなのか?

  

 「さぁ・・・、そいつはどうなのかな・・・。」

  面白そうな<ジョーカー>の声が、耳をくすぐる。

 「第一、あいつらハトでも無さそう、だろ―?」

  ああ、そうなのだ。

  それが、少し気になっていたんだ。

  あの影には、手も足もついてて、実に見慣れたシルエット・・・。

  してみると、やはりあの青く光って転がる球は・・・・・・。

 「ま、ハンドしまくりの連中に、審判下すのはオレ達じゃねぇだろ?」

 「とりあえず、俺達としては『普通に人生を生き抜く』ってので、結構精一杯だし・・・?」

 「同感です―。」

  呟くように言ってみて、うんうん、とうなずいて納得。

 「そう、まったく同感です。僕は、普通に生きるだけが、確かに『得意』だって言える事だと思えるから・・・。」

  そして、『扉』を抜けて行く。

  そこに待つのは<ウサギの穴>―、僕が平和な眠りをむさぼれる、そんな場所―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        Fin.

20070707

Thanks for you.

 

 

 

 

  〜 あとがき らしきもの 〜

  

  はい、初めましての方も・お久しぶりの方も―、ども。<K>です。

  いわゆるDOHDOH物語(判らん人へ『どうでもイイ話*二乗』という意味無し・オチ無し基本の話をこう呼ぶ@)です。

 『灰色いちまつ文様』がそもそも『DOHDOH』なので、ま、勘の働く皆様ならば、「あ、読んで笑ってりゃイイのね」って事で〜@

  

  ってな訳で、第三弾。

  いつの間にやら、シリーズ主人公化している<ヤマネ>クン(今回も、ご満足いただけましたでしょうかー?)。

  ところによっては大人気、<眠りネズミ>クンの再就職話になってしまいました。

  ま、いっか。どうしてそうなったのかが、まったくもってよく分からないんだけどね〜★

  っつーか、この<眠りネズミ>及び<チェシャ猫>中心に繰り広げられる話って、某福音館様の『アリス』ネタ引用バリバリな為に(っていうか、ハッキリ言って某詩がまるまる引用状態なので、果たしてHPに書いてしまって良いんだかが判定しづらいのでありま すよ。ぬー。隠しページにでもするか???)

 

  ハトのパン・ボール争奪戦は、実話であります。

  ホントに、パン食いたいらしいスズメが一匹、山のようなハトの中で駆けずり回ってました。

  うーむ。こいつも恐るべき食い意地張っていたのかなぁ???

  

  ま、そゆ訳で。

  話の方は、どうぞ自己解釈にてお好きに御調味下さいませませ〜@@@

  ちなみに、<眠りネズミ>が<チェシャ猫>にデ・ジャ・ビュ感じたのは、気のせいではありません。

  奴が学生時代の帰途途中の路上で、プチ災難に合っているのでありますが、それはまた別の話でありんす。

 

  そんなこんなでー。時々、こういう不可思議プロット有耶無耶が書きたくなる作者の阿呆につきあって下さる方おりますれば、また遊んでやって下さいませ。

  それでわ〜。またその内、お目にかかりませう@

  おつきあいの程、大恩謝々@ ご縁がございましたら、また〜@ 再見@@@              <K

 

 

 

 
 
 
 
 脱兎→

 

 

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