20080209
〜 猿の歩き方 〜
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
失敗・失敗・また失敗―。
ここんトコ、失敗続きで更に失敗が積み重なっている。
体調不良? いや、別に。
食欲だってある、特に人間関係だって悩んでなんかいない。
仕事? 仕事だってそれなりに順調にやっていたはずだ。
それなのに・・・、何だか、つまらない失敗ばかりが続いている。
― 気にするコト無いよ〜@
― 平気・平気。こんなん失敗の内に入らないって!
― 何も、そんな悩む事無いじゃんよー。
いい同僚・いい友達・いい人たち・・・。
誰一人として、自分の『失敗』を責める人はいない。
実際、ささいな事なのだ。
『失敗』は『失敗』として認められないまま、どこか知らないトコロへ捨てられて行く。
無かった事として、当然のように忘れ去られて行く・・・。
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
どうもしなくて良いはずなのに、何も気にすることなど無いはずなのに。
つい、この間出会ったばかりの失敗のことを、忘れる間も無く―。
ソッと自分の元に『戻って来ていた』失敗の存在に、気付いてしまう。
気付いてしまい、硬直し―、またもや失敗の餌食となってしまうのだ。
それも失敗・あれも失敗・・・、でも、みんなは口をそろえて言ってくれる。
― 大丈夫、大丈夫!
― ドンマイ・ドンマイ! 失敗は成功の元だって言うしさ!
― 疲れているんじゃないの? 少し、リフレッシュしてみなよ、ね・・・?
いい人・いい人・いい人たち・・・。
何て自分は恵まれているんだろう、と思いながらも。
何で自分はこんなに失敗ばかりしているんだろう、とネガティブこの上無い気分に苛まされる。
何で・・・、何で?
何で、こんなに失敗ばかりが目に入って来てしまうんだ???
― ああ、それなら仕方無い―、この目をふさいでしまうしかない。
失敗・失敗・また失敗―。
目をふさいだら、周りがまったく見えなくなった。
一体全体、自分は何をしているんだ?
ただ闇雲に・闇雲に―、頑張って頑張ってやり続けて・・・。
失敗・失敗・また失敗―だ。
― ホント、大丈夫?
― 頑張りすぎじゃないのかな? 何か、顔色も悪いみたいだし・・・。
― あのさ、少し気楽に・・・、休んでみた方が良くない?
優しい・優しい・優しい人たち―。
心配そうな言葉、気を遣ってくれる言葉―。
おもわず甘えそうになってしまいながら、それではいけない、という声を聞く。
こんなに失敗ばかりして―、甘えるばかり甘えまくって・・・。
いけない・いけない・聞こえてくる優しい言葉に甘えちゃいけない・・・。
― ああ、それなら仕方無い―、この耳をふさいでしまうしかない。
失敗・失敗・また失敗―。
耳をふさいだら、何一つとして聞こえなくなった。
一体、自分は、何をしているんだ・・・?
何も聞こえない・何も聞こえない・・・、ただもうがむしゃらにやれる事をやって・・・。
失敗・失敗・また失敗―だ。
― ・・・・・・・・・?
― ・・・・・、・・・・・・・・!?
― ・・・・・・・・・・・・っっっ!!
何だろう、何だろう、何なんだろう・・・?
何も見えない・何も聞こえない―、何と言えば良いのかが、分からない・・・!!
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
思わず悲鳴を上げそうになって、慌てて息を飲み込んでみる。
いけない・いけない・ただでさえ、迷惑かけているに違いないのに、これ以上・・・!!
― ああ、それなら仕方無い―、この口をふさいでしまうしかない。
目をふさいで。耳をふさいで。口をふさいで・・・。
何も見えず・何も聞こえず・何も言えないまま、震えているしか無い。
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
答えなんか、分からない。
答えを知る術すら無い・・・!!
苦しい・哀しい・どうすれば良いのか分からない・・・!
自分が今どうなっているのか・何をしているのか・いや・・・。
そもそも『自分』というものが、本当にここに存在するのかすらが、段々と疑問に思えてくる。
本当に、自分はここにいるんだろうか?
本当に、自分なんてものが存在するんだろうか・・・?
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
重しのように、その言葉だけが自分の上に降り積もる。
このままいれば、きっとその言葉に自分という存在はグッシャリつぶされてしまうだろう。
そうしたら・・・。
―そうすれば?
― そうしたら、『失敗』なんか、気にもならなくなるんじゃないかな・・・?
思いつきにドキドキする。
何だかスゴイ思いつき。
何だか素敵な思いつき。
何にも悩まなくて済むようになれば、何にも問題無くなるんじゃないかな。
―世界は、みんな優しくてイイ人だけのものに、なるんじゃないかな―。
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
どうしようもないんだ。
どうしようもないんだ。
目をふさいで・耳をふさいで・口をふさいでいるんだから。
何をやっても『失敗』ばかりなんだから・・・。
僕には、どうしようもないんだ・・・・・・。
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
安心して、このままいよう。
このままいれば、大丈夫なんだ。
もう、そんな風に悩まなくてもいいんだ。
― どうすればいいんだろう・・・、どうすればいいんだろう・・・?
そんな風に、優しくて・いい人達に尋ねて・尋ねて・困らせる事もしなくていいんだ・・・。
「ホンット、どうしようもねぇよな―?」
突然―、ゴロン、と。
背中から強い力に押されて、転がる自分の体。
ゴン! と。
ものすごく強い力が頭のてっぺんに加えられて―、僕はおもわず頭に手をやり、叫んでしまった。
「い、い、痛いっっっ!!」
「良かったじゃね〜か、生きてる証拠が確認出来て?」
涙が出て来る。
頭のてっぺんがズキズキしてる。
自分の目の前にふんぞり返っている、小柄な少年の存在に、初めて気付く。
少し赤くなった握り拳をフッと吹き、パンパン、とわざとらしく手を打って見せてくる・・・。
―見たコト無い。知らない。こんな人知らない。知らない人に・・・、思いっきり、ぶたれた・・・???
「石頭―。殴ってこんなに痛いんじゃ、やっぱ素直に蹴り入れておくべきだったよなぁ?」
「け、蹴らないでよ! ぶつのもヤダ!!」
「んじゃ、立て。俺の行く先にのさばって転がってんじゃねぇ、バカ猿っ!!」
「おおお、お猿さん・・・???」
「ヒトなんて、みんな猿だろーが。何か間違ってっか?」
片方の眉を上げて、メチャクチャ莫迦にしたような口調で彼は言う。
むぅ、と思いながらも、言ってる事は一応正しいので、ううん、と首を横に振ってみる。
「あってると思う。」
「あ〜、素直。素直ついでに、まだ腰抜かしてんのか?」
「あ、う、立つ! 立つから、蹴らないでっ!!」
パキ、と。脅かすように指を鳴らして見せた少年は、何だか不思議な色合いの・・・灰色がかった緑色の瞳をスッと細める。
柔らかい茶色の髪に縁取られた、それとなく整った感じの愛嬌あるような性別不明瞭な顔が、あきれ返ったような表情を貼り付ける。
「・・・お前・・・、マジ、バカ・・・???」
「ば、ばか・・・・・・、かも・・・・・・。」
言い返すだけの要素が無く、ションボリして言ってみれば。
彼はうんうん、とうなずきながら、キッパリと言ってくる。
「だよな〜。普通、指鳴らしてりゃ〜、お次の台詞は『殴らないで』だろ、そこは!」
「『殴らないで』とかいう台詞を出させるような状況を、そもそも作らないで欲しいんだけどな〜★」
ぶつぶつぶつ・・・。
もっとも―と言えばもっともな台詞に、あれ、と。口の悪い彼の後ろにもう一人の人を発見。
銀縁の眼鏡をかけた、どこにでもいそうな感じの青年。
同じ年くらいかな・・・?
優しい・いい人みたいな青年に、思いっきり意地悪な感じの少年が、相変わらず乱暴に一言。
「るっせぇな。公道で寝くさってる奴なんざ、蹴られて当然だ。」
「蹴ってないじゃないか。」
「ああ、『蹴られて当然』なトコを、わざわざ『殴ってやった』んだ。良かったじゃねぇか、ちゃんと目が見えるようになって。」
「・・・・・・あれ???」
そういえば、と。
おもわず、ジッと手を見てしまう。
―見える。聞こえる。話せる・・・?
「大体、基本『猿』ってのはどんなに器用でも、手足四本しか使いようがねぇんだよ! 要らん根性出したりすっから、もう二本ばかり過剰な『手』が出て、情報処理がおっつかずにパニくったりすんだ、ボケっ!!」
「いや、だからさ〜★ もうちょっと、優しく・・・」
「優しくだぁ〜? 何でこんな道端で根腐っているようなボンクラ相手に、俺が甘々な台詞なんざ囁いてやらにゃぁならんのだ!」
「いや、誰も甘々な台詞を言って下さいとは・・・★」
「そういうのは、別に向きの奴がいるだろう? チェシャにでもやらしておけ、チェシャにでもっっっ!!」
「それはそう・・・、って、いやいやいや! 折角不在の猫を呼び出すような事、言わないで下さいっ!」
ぞぉっとしたように、反射的に十字を切る(?)青年。
「<ヤマネ>クンがどんなに乱暴モノで口が悪くて、知らない人からは誤解を受けるような言動の持ち主でも、アレよりは数万倍もマシですから!!」
「―それ、微妙〜にケンカ売ってるか、<眠りネズミ>?」
「そんなモン売ってない、というよりも売れません! 僕の平和主義的取り扱い商品から大きく逸脱しまくってます!! それに、僕、<ヤマネ>クンの事は尊敬してますから!!」
「あ〜、<チェシャ猫>顎で使ってっから?」
「使っていようが・いまいが―。あの特異な場所の『誰一人にも負けないで』いられる底強さには、尊敬以外の何物も・・・」
「あ、あのぉ・・・★」
「あ、はい?」
何だか微妙にハイ・テーションになりかかっていた青年<眠りネズミ>が、キョトン、としてこちらを見る。
「何でしょうか?」
「っつーか、まだいたのか、お前?」
「いや、あの、だって、ここって・・・★」
― どこなんだろう。分からない。
いつの間にか、ただ・ただ暗いばかりの場所にいる。
こんなに暗くて仕方無いのに、何で、この二人の奇妙な人たちだけは、クッキリ・ハッキリと分かるのだろう。
「だっても何も無いだろ★」
呆れたように、少年が言えば。青年が、まぁまぁと―。
「もうちょっと、優しく・・・★」
「優しくっつーたって・・・、んじゃ、お前。」
「あ、はい!」
ビシ! と。指先を突きつけられて、思わず気をつけ!
「お前、一体どうしたいんだ?」
「どう、って・・・。その、とりあえずは、ここから家に帰りたいかな、と・・・?」
「分かってるなら、さっさと帰れ。それでしまいだ―、いや、『始まり』か?」
面白そうにケラケラ笑う少年の、言おうとしている事が分からない。
困惑して、眼鏡の青年の方を見れば・・・、苦笑しながら、彼は言う。
「目的があるなら、それに向かってする事はひとつ―。単純明快にやってみましょうよ?」
「単純・・・、明快・・・・・・?」
「にっぶ〜っ!」
腰に手を当て、思いっきり頭を左右に振る少年―<ヤマネ>。
チッチッチッ、と。
片目をつぶって鼻先で指を振り―、彼は言った。
「ま〜だ、目とか耳とか口とか、順ぐり塞いでいやがんのな、お前。ま、いいんだけどさ?」
「え???」
「ま〜お前は、立ち上がったばかりの猿なんだし―。手は、それで塞がってるから仕方ねぇとして・・・。」
「?????」
― 猿? やっぱ、僕は、猿なのか・・・???
自分の手を見、ニヤニヤしている少年を見・・・。微笑んでいる青年を見てから、またジッと手を見てしまう。
「目ェふさいで・耳ふさいで・口をふさいで―、手も出せない。」
― 何か、そんな猿の彫り物を、見たコトあるなぁ、とかボンヤリ思う。
そうか、僕は、猿なのか―、と。何だか、妙に納得しながら・・・。
失敗・失敗・また失敗―。
だから、反省しか出来なかったのか―、なんて。自嘲―。
そんな僕の耳に、少年の楽しそうな、明るい声が投げ込まれる。
「んじゃぁ、後は『足』使って、歩くしかねぇだろ・・・?」
「・・・・・・あれ?」
ガヤガヤガヤ・・・。
我に返ると、会社近くの通りにボンヤリ立っている。
「あ、お疲れー@」
「あ、お疲れサマです・・・。」
「今日も疲れたよねー。明日も頑張ろう! 今日の失敗は、明日の糧だよん@」
「あ、はい―、ありがとうございました!」
大きく手を振って帰って行く先輩に、礼をする。
― 今日の失敗は、明日の糧かぁ・・・。
「・・・よし!」
とりあえず、先輩の勢いを真似して、歩き出す。
猿真似にしかすぎないけれども、元気いっぱいの先輩を、空元気でも真似してやってみよう。
きっとその内、僕にだって・・・、本当の元気が沸いてくる。
「おいっちに・おいっちに・・・。」
歩ける内は、前に進める―、まずはそこから始めてみよう。
ほんの少し―、取るに足らない失敗なんかは、目をふさいで・耳ふさいで・口をふさいでやりすごせばいい。
今はそれだけで手一杯でも・・・、こうして足で歩く事だけは、忘れずに行こう・・・。
― これが、僕の歩き方―、それを忘れないように、歩いて行こう・・・・・・。
Fin.
20080209
Thanks for
you.
〜 あとがき らしきもの 〜
はい、初めましての方も・お久しぶりの方も―、ども。<K>です。
いわゆるDOHDOH物語(判らん人へ『どうでもイイ話*二乗』という意味無し・オチ無し基本の話をこう呼ぶ@)です。
あ〜、久々。ネタは去年出てたけど、どう調理しようかが思いつかなくって放置。
何となく、まぁ、書きたくもなったかな、と。
かなりいい加減に書いてみたら、こんなんなってみたらしい。
主人公が<ヤマネ>だから、結局『手も出る・足も出る』。
本当―、お前、理解ある外野ばかりで良かったな★
そうでなければ、ただの乱暴者です。そうでなくても、乱暴者だけど(笑)・・・。
こういう不可思議プロット有耶無耶は、やっぱ時々書きたくなるねぇ。
こんな作者の阿呆につきあって下さる方おりますれば、また遊んでやって下さいませ。
そーいや、こういう阿呆話は携帯でも良いだろうと、携帯版でも読めるようにするらしい。
打ち直すのは夜久なので、私はよう知らんけど(笑)。
そんなこんなで、それでわ〜。またその内、お目にかかりませう@
おつきあいの程、大恩謝々@ ご縁がございましたら、また〜@ 再見@@@ <K>